近年、仮想通貨に関する話題をよく見聞きするようになりました。
仮想通貨というのは、円やドルなどと同じく、
物の価値の尺度として流通し、支払いの手段になるものです。
ただし硬貨や紙幣のような実体も、中央銀行のような管理者もなく、
分散したコンピュータネットワーク上に、情報として存在しています。
取引を記録した、台帳に相当するものは、ブロックチェーンと呼ばれています。
これも分散ネットワーク上に存在していて、
その正確な更新には大量の計算(つまりは手間やコスト)を必要とするために、
これに成功したものには報奨として、新たな仮想通貨が発行され渡されます。
この報奨の仕組みはマイニング(mining)と呼ばれ、
そのために更新作業を行う人をマイナー(miner)という…
というのが概要ですが、詳細は参考書その他の情報源に譲ります。
仮想通貨をめぐる話題には、技術としての仮想通貨と、
投機対象としての仮想通貨の2つがあるように思います。
仮想といっても通貨ですので、
売買のタイミングによって為替の差益、差損が発生します。
またマイニング時点の相場によっては、マイナーに莫大な金融資産が転がり込みます。
現在のところ、仮想通貨の相場変動が大きいため、
投機の熱が一段とエスカレートしているように感じています。
仮想通貨にはいくつかあるようですが、
代表格になっているのがビットコインです。
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先日、このビットコインに関する、アラスカの新聞記事を見ました。
日本の山の中にもありそうな、川をせき止めたダムの写真が載っています。
情報技術の先端を行くような仮想通貨と、
自然のほかには何もなさそうな山奥が、どう結びつくのだろう…
記事は少し長めなのですが、
かつて製紙業で栄えたものの、工場の閉鎖後急速に衰えた町に、
ビットコインマイナーがやってきて、
短期間の間に、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長したかと思うと、
今度は価格の暴落に苦しむ様子を、物語調で語っているものです。
舞台となっているのはカナダ西海岸、ブリティッシュコロンビア州の、
ヴァンクーバーの北西にある、Ocean Falls という町です。
Ocean Falls はここ(Google地図データより)
ノルウェーのフィヨルドばりの海岸線の中に、ぽつねんとある町のようで、
記事の文言を借りると、この町に通じる航路から眺められる人類の唯一の痕跡は、
“a single power line stretching out from the dam” なのだそうです。
調べてみたところ、20世紀の初頭に製紙工場が置かれ、
一時はブリティッシュコロンビア州で一番の生産量を誇っていたようですが、
コストが上昇して採算が取れなくなり、1970年代に工場は閉鎖されたとのこと。
記事によれば一時5,000人ほどあった人口が、100人を割り込んでしまった。
前述のとおり、マイニングには大量の計算が必要で、
計算環境の安定した稼動のために、大量の電力を必要としています。
Ocean Falls に電力を供給している送電系統は、カナダの電力ネットワークにつながっておらず、
それに目をつけたあるビットコインマイナーが、
格安の費用負担での、大量の電力使用を認めてもらったらしい。
かつての工場のフロアを借り受け、データセンターとしてマイニングを始めました。
進出当初のビットコインの価格は400ドルだったのが、昨年の12月には20,000ドルにまで高騰。
ビットコインマイナーは投資者に対し、
2018年の末には6メガワットを使用し、年間570万ドルをマイニングで獲得、
2021年までには30メガワットを使って17,500ビットコインをマイニングする、
と気炎を上げていたそうです。
先日の北海道の地震では、非常の発電対策として、
老朽化した発電所をいくつか急遽立ち上げて、急場をしのいだ場面がありましたが、
そのときの発電量は20~35万キロワットでした。
1,000キロワット=1メガワットですので、これは200~350メガワットに当たります。
あくまで参考値ですが、マイニングが使用する電力の大きさがわかると思います。
ところが今年(2018)にはいってから、ビットコインの価格が急落し、
設備の増強や株の上場を考えていたマイナーは大きな打撃を受けます。
電力使用量は1メガワットにも届かず、
目標値を当初の6メガワットから1.5メガワットに下方修正しました。
このビットコインマイナーは、転んでもタダでは起きない生粋のアントレプレナーらしく、
冷却ファンの代用に水冷システムを開発して売りにだそうだとか、
計算機が発生する熱で水を温めて、鮭の孵化場に送ろうだとか、
本業を補完するいろいろなビジネスアイディアを考えているようですが、
文明世界からははるかに離れた未開地でもあり、前途が見通せない状況にあるようです。
記事は、Ocean Falls にやってきたビットコインマイナーに対する、
住民の心境を紹介して終わっています。
本質的には、”the pure conversion of electricity into money” であるマイニングを、
懐疑的に見る人がいる一方で、
電気を使ってくれて、それで町がにぎわうならそれでいい、という人もいる。
いずれのコメントの裏にも、年寄りばかりになった町に誰か、
特に若い人がやってくることへの期待がにじんでいました。
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新聞記事によれば、マイニングに適する場所として、
寒冷で、十分な水力発電量があることを条件に挙げています。
以前は新彊ウィグル、内モンゴル、黒龍江省など、
中国の奥地が注目されていましたが、
現在は炭素排出などの問題から、北欧や北米にマイナーの関心が移っているそうです。
記事の写真や、Ocean Falls の地理・歴史を読むと、
自分にはどことなく、北海道のかつての炭田地帯や、
利用者が少なくなって廃止に追い込まれたローカル線の風景が思い出されてきます。
少子高齢化に伴う人口減少で、地方自治体の中には将来の存続を危ぶむところもあります。
こうしたマイナーのアイディアが、過疎化、限界集落対策のヒントになるのかも。
日本ではコストの面で難しいかもしれませんが、将来シベリアなどで、
こうした電気売り、エネルギー売りがビジネスになるのかもしれません。
ビットコインのブームがいつまで続くのかはわかりませんが、
見捨てられた町にとって救世主になるのでしょうか、
それともかつての製紙業のように、
大自然の中に突如として割り込んできて、
大騒ぎをした挙句、廃墟を残したまま去ってゆく…
といった歴史を再現して終わるのでしょうか…
Photo via Good Free Photos