ブログ」カテゴリーアーカイブ

北の国々の暮らし情報、マスメディアの紹介、取材活動、調査結果のほか、周辺の出来事の雑多な記事を取り上げます

【グリーンランド】極地性の植物が急成長

グリーンランドは北米大陸の北東、北極海と大西洋に面した陸地で、世界最大の島とされています。
面積はおよそ216万平方キロメートルで、日本の国土の5倍以上ありますが、
人口は沿岸部などに5万6千人程度を数えるに過ぎません(数値は国連統計局のデータベースUNDataによる)。

国際的な立場としては、デンマーク王国の一部ではありますが、
自治政府が置かれ、地元先住民を中心とした行政が行われています。
中心都市は南西海岸にあるヌークです。

そのヌークのラジオ局のWebサイトに、北極の植物に関する記事(元のソースはこちら)がありました。
日本の高山でも目にする、シャジンやチシマギキョウのような花の写真が載っています。
ちょっと気になったので読んでみました(ちなみに、同サイトには先住民の言葉によるページと、デンマーク語によるページの2つがあり、翻訳の都合でデンマーク語のページを参照しました)。

地球温暖化は極地の気温も上昇させている。気候が温暖になると極地のツンドラ帯の植物の成長が進行する。
極地性の植物の成長に関する研究成果が、科学雑誌「Nature」に掲載された。それによると:
-過去30年以上にわたって気温が暖かくなっており、植物の高さが上がっている。植物の高度化は気温の上昇に加担している。
ツンドラ帯には地球全体の半分を占める炭素が存在している。
もしツンドラ帯が融解すれば、その炭素が放出され、温室効果が促進される。
植物の高さの上昇が、ツンドラ帯の融解を進行させる2つの理由がある。
秋と冬においては、背の高い植物は積雪に対して有利であり、地表の寒さを防ぐことができる。
春と夏においては、植物が太陽光をより多く吸収するため、融雪が早まる。
分析は、グリーンランド、アラスカ、カナダ、アイスランド、スカンジナビア、シベリアの各地から採取したデータをもとに行われた…

というのが記事のおおまかな内容です。

この記事には、元の論文の一部を切り取ったもので不完全である、といった批判的なコメントがついていて、
植物成長=温暖化進行説はちょっと眉唾臭いのですが、
植物の生育と気候の微妙なつりあいについて、
考えるきっかけを与えているように思えます。

今日、都会においては、いわゆるヒートアイランド対策として、
ビルの屋上を緑化したり、道路や公園の植樹を増やしたりと、
緑の面積を拡大することがおこなわれていますが、
単純に植物を植えることはよいことなのだろうか、
生育が環境に与える影響を、多面的に考察することが必要なのではないだろうか…

写真の植物の高さも上がっているのか、記事には書いてありませんが、
冒頭あげたシャジン、チシマギキョウといった植物は小さいので、
山でうっかり歩いていると登山靴で踏んでしまいそうになります。
日本では富栄養化で、尾瀬などのミズバショウが巨大化している、といった話を聞いたことはありますが、
北アルプスで見かけるような花を咲かせる個体が大きくなる、という情景は、
ちょっと想像しづらいものがあります。

Photo via Good Free Photos

 

【カナダ】見捨てられた町とビットコイン

近年、仮想通貨に関する話題をよく見聞きするようになりました。

仮想通貨というのは、円やドルなどと同じく、
物の価値の尺度として流通し、支払いの手段になるものです。
ただし硬貨や紙幣のような実体も、中央銀行のような管理者もなく、
分散したコンピュータネットワーク上に、情報として存在しています。

取引を記録した、台帳に相当するものは、ブロックチェーンと呼ばれています。
これも分散ネットワーク上に存在していて、
その正確な更新には大量の計算(つまりは手間やコスト)を必要とするために、
これに成功したものには報奨として、新たな仮想通貨が発行され渡されます。
この報奨の仕組みはマイニング(mining)と呼ばれ、
そのために更新作業を行う人をマイナー(miner)という…

というのが概要ですが、詳細は参考書その他の情報源に譲ります。

仮想通貨をめぐる話題には、技術としての仮想通貨と、
投機対象としての仮想通貨の2つがあるように思います。
仮想といっても通貨ですので、
売買のタイミングによって為替の差益、差損が発生します。
またマイニング時点の相場によっては、マイナーに莫大な金融資産が転がり込みます。
現在のところ、仮想通貨の相場変動が大きいため、
投機の熱が一段とエスカレートしているように感じています。

仮想通貨にはいくつかあるようですが、
代表格になっているのがビットコインです。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

先日、このビットコインに関する、アラスカの新聞記事を見ました。
日本の山の中にもありそうな、川をせき止めたダムの写真が載っています。
情報技術の先端を行くような仮想通貨と、
自然のほかには何もなさそうな山奥が、どう結びつくのだろう…

記事は少し長めなのですが、
かつて製紙業で栄えたものの、工場の閉鎖後急速に衰えた町に、
ビットコインマイナーがやってきて、
短期間の間に、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長したかと思うと、
今度は価格の暴落に苦しむ様子を、物語調で語っているものです。

舞台となっているのはカナダ西海岸、ブリティッシュコロンビア州の、
ヴァンクーバーの北西にある、Ocean Falls という町です。


Ocean Falls はここ(Google地図データより)

ノルウェーのフィヨルドばりの海岸線の中に、ぽつねんとある町のようで、
記事の文言を借りると、この町に通じる航路から眺められる人類の唯一の痕跡は、
“a single power line stretching out from the dam” なのだそうです。

調べてみたところ、20世紀の初頭に製紙工場が置かれ、
一時はブリティッシュコロンビア州で一番の生産量を誇っていたようですが、
コストが上昇して採算が取れなくなり、1970年代に工場は閉鎖されたとのこと。
記事によれば一時5,000人ほどあった人口が、100人を割り込んでしまった。

前述のとおり、マイニングには大量の計算が必要で、
計算環境の安定した稼動のために、大量の電力を必要としています。
Ocean Falls に電力を供給している送電系統は、カナダの電力ネットワークにつながっておらず、
それに目をつけたあるビットコインマイナーが、
格安の費用負担での、大量の電力使用を認めてもらったらしい。
かつての工場のフロアを借り受け、データセンターとしてマイニングを始めました。

進出当初のビットコインの価格は400ドルだったのが、昨年の12月には20,000ドルにまで高騰。
ビットコインマイナーは投資者に対し、
2018年の末には6メガワットを使用し、年間570万ドルをマイニングで獲得、
2021年までには30メガワットを使って17,500ビットコインをマイニングする、
と気炎を上げていたそうです。

先日の北海道の地震では、非常の発電対策として、
老朽化した発電所をいくつか急遽立ち上げて、急場をしのいだ場面がありましたが、
そのときの発電量は20~35万キロワットでした。
1,000キロワット=1メガワットですので、これは200~350メガワットに当たります。
あくまで参考値ですが、マイニングが使用する電力の大きさがわかると思います。

ところが今年(2018)にはいってから、ビットコインの価格が急落し、
設備の増強や株の上場を考えていたマイナーは大きな打撃を受けます。
電力使用量は1メガワットにも届かず、
目標値を当初の6メガワットから1.5メガワットに下方修正しました。

このビットコインマイナーは、転んでもタダでは起きない生粋のアントレプレナーらしく、
冷却ファンの代用に水冷システムを開発して売りにだそうだとか、
計算機が発生する熱で水を温めて、鮭の孵化場に送ろうだとか、
本業を補完するいろいろなビジネスアイディアを考えているようですが、
文明世界からははるかに離れた未開地でもあり、前途が見通せない状況にあるようです。

記事は、Ocean Falls にやってきたビットコインマイナーに対する、
住民の心境を紹介して終わっています。
本質的には、”the pure conversion of electricity into money” であるマイニングを、
懐疑的に見る人がいる一方で、
電気を使ってくれて、それで町がにぎわうならそれでいい、という人もいる。
いずれのコメントの裏にも、年寄りばかりになった町に誰か、
特に若い人がやってくることへの期待がにじんでいました。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

新聞記事によれば、マイニングに適する場所として、
寒冷で、十分な水力発電量があることを条件に挙げています。
以前は新彊ウィグル、内モンゴル、黒龍江省など、
中国の奥地が注目されていましたが、
現在は炭素排出などの問題から、北欧や北米にマイナーの関心が移っているそうです。

記事の写真や、Ocean Falls の地理・歴史を読むと、
自分にはどことなく、北海道のかつての炭田地帯や、
利用者が少なくなって廃止に追い込まれたローカル線の風景が思い出されてきます。
少子高齢化に伴う人口減少で、地方自治体の中には将来の存続を危ぶむところもあります。
こうしたマイナーのアイディアが、過疎化、限界集落対策のヒントになるのかも。

日本ではコストの面で難しいかもしれませんが、将来シベリアなどで、
こうした電気売り、エネルギー売りがビジネスになるのかもしれません。

ビットコインのブームがいつまで続くのかはわかりませんが、
見捨てられた町にとって救世主になるのでしょうか、
それともかつての製紙業のように、
大自然の中に突如として割り込んできて、
大騒ぎをした挙句、廃墟を残したまま去ってゆく…
といった歴史を再現して終わるのでしょうか…

Photo via Good Free Photos

【スウェーデン】スウェーデンデイ

先日東京のスウェーデン大使館において、「スウェーデンデイ」なるイベントが催されました。

国の名を関した、何とかデイという催しは時々あります。民族衣装を着た人を先頭にしたパレードであったり、その国の物産や軽食類を販売するプロモーションであったり、ステージで音楽やパフォーマンスを実演したりと、いろいろなパターンがあります。この日のスウェーデンの場合は、製品の展示、販売もありましたが、メインは講演にあるように思えました。

大使館の建物内の一角に、大学の階段教室のような小講堂があって、その中でレクチャーがあったようです。そのうちのひとつを聞いてみました。

lecture
開始前の様子

スウェーデン発祥の家具量販店である「IKEA」の人が英語で、いまはやりの?同社のサステナブル戦略を説明していました。家具というとどうしても木材が主な原料になるため、森林の保護だとかリサイクルだとかいった分野で、これこれの貢献をしていて今後こうしたいと考えている… といった内容でした。

program
この日の講演者

イベントを主催していたのは一橋大学の学生さんで、スウェーデンからの留学生を交えて、かの地のお菓子を振舞ったり、現地の説明などをしていたようです。

なので、出し物に関してはやや素人臭さがありましたが、さすがに学生さんということからか、全体的にアカデミックな雰囲気がありました。

大使館にもいろいろあって、オープンに来客を迎えるようなところもあれば、来訪はすべて本国に伝えるので事前に英文で伺いを立てろ、などと、ガチガチのお役所的対応をとるところもあります。個人的には大使館にはいい記憶がないので、ここの場合はどうなのかな、と気をもんでいましたが、イベント開催という事情もあったせいか、拒絶的な印象がなかったのはよかったと思います。

 

【アラスカ】アッツ戦75周年記念イベント

1940年代の対米戦争では、開戦の舞台となったハワイの真珠湾や、戦局の転換点となったミッドウェイ、消耗戦を演じたガダルカナル、多くの犠牲を出したサイパンやフィリピンなど、中部太平洋での戦闘に目が向けられることが多いように思いますが、北太平洋、それもどちらかといえば極北に近い領域であるベーリング海でも、日米の交戦がありました。

東のアラスカ半島と、西のカムチャツカ半島を、艫綱のように結んでいるアリューシャン列島の中央部にある二つの島を舞台に、日本軍と米軍との間で繰り広げられた戦闘から、今年は75年にあたるということで、アラスカのアンカレッジで記念のイベントが催されたようで、アラスカの新聞に紹介記事がありました。

内容としては講演会、パネルディスカッション、展示会などのほか、日本人監督によるドキュメンタリ映画の上映が企画されています。全体的に戦闘そのものよりも周辺のエピソード、この地域の先住民に及ぼした影響に焦点が当てられているように思いました。

二つの島というのは、アッツ島:面積893平方キロ(佐渡島(同855平方キロ)よりやや大きい)とキスカ島:面積278平方キロ(西表島(同289平方キロ)より少し小さい)です。太平洋戦争におけるアリューシャンの戦いというと、日本側ではアッツ島での玉砕、キスカ島からの奇跡の撤退といった、どちらかといえば結末部分の軍事行動について語られることが多いと思います。それも確かに歴史の一面だとは思いますが、二つの島の占領時のいきさつや、最終的な戦闘に至るまでの状況については知られていない、あるいは伝えられていないように感じます。

本サイトとしては、周囲から隔絶された北の海に浮かぶ火山島で、どのような暮らしが営まれているか、といった事柄に興味があるのですが、現在この二つの島は立ち入りが制限され、住人はいないらしい。ですが記事を読んで、1942年の占領時、アッツ島には住民がいて日本に連行された、占領に際して死者も出ていた、ということをはじめて知りました。

戦後、アッツ島の住民は本国に帰ることができましたが、島にあった村は破壊され、帰島は許されずに今日に至っているそうです。何がなし、小笠原の硫黄島と似たような状況ですが、平穏な暮らしを送っていた市井の人々から静かな日常を奪い、戻すことをしない(できない)現実の非情さが、紹介記事の隅々から伝わってきます。

上述のドキュメンタリ映画は、夏に日本でも公開が計画されているようです(参考サイトはこちら)。

Photo via Good Free Photos

 

【一般記事】ジェトロ・ビジネスライブラリの閉館

東京赤坂にあるジェトロのビジネスライブラリが今月いっぱい(2018年2月末日)で閉館となるそうです(HPでのアナウンスはこちら)。

ジェトロ(日本貿易振興機構)は日本企業の貿易支援と海外市場の情報提供、逆に海外企業の日本市場への進出・投資の促進を通じて、日本経済の発展に資することを活動目的とする組織です。東京赤坂(アークヒルズ)に本部があるのですが、ビジネスライブラリとして図書館を併設しています。

先日でかけたところ、閉館を知らせるチラシをもらい、ちょっとびっくりしました。先月も来たのですが、そのときはそんな気配もなく、満足度調査のような、のんびりしたアンケート用紙を配っていたような覚えがありましたが。

閉館の理由として、資料の電子化やインターネットの普及をあげています。確かにそうした情報収集手段の進化も背景にあるのかもしれませんが、電子化された情報というのは現在のところ、現実世界のほんのうわべに過ぎないし、立体的な空間の中で得られる体験は、平面的な画像の中で得られる知識では得られないものがあると思うのですが。

アークヒルズといえば都心の一等地なので、そんなコストのかかるところにネットで得られるような情報を、書籍の形で置いておくのは割に合わない、ということなのかもしれません。

海外貿易・投資の情報司令塔というのでしょうか、相談で訪れる人もあるようですが、自分はもっぱら情報収集のために、時折この図書館を利用していました。下手な公立図書館よりも静かできれいな館内はなかなか気に入っていたので、またひとつ落ち着ける場所がなくなってしまうのが大変残念です。

【アラスカ】アラスカ・ダブルワーク事情

本業のほかの収入源のことを副業などと呼んでいます。ダブルワークという言葉もありますが、これはサラリーマン、公務員などの勤め人が、本業の勤務時間外に、やはり給与形態の仕事をすることをさすようです。

アラスカにも、こうしたダブルワークに携わる人たちがいるようで、先日地元の新聞に記事が載っていました。元ネタはアラスカ州の労働・職業訓練局なるところが出しているレポートのようですが、新聞社らしく、幾人かのダブルワーカーへのインタビュー記事を添えて、盛り上げています。

複数の仕事先を持つ人の割合は、2016年時点で全米では5%ほどらしいのですが、アラスカではこれが11.2%に跳ね上がる(2015年)。アラスカというと、自然豊かな寒冷地のイメージがあって、事実、一時的な季節労働も多いようなのですが、ダブルワーカーに職種を尋ねてみると、小売店員とか介護職員、レジ係、飲食店従業員、清掃員など、日本の求人雑誌でもよく見る、常連職種がならんでいて、現代社会はどこでも同じなのか、の感慨が否めません…

トータルの収入という点では、ダブルはシングルほど稼いでいない。ひとつの仕事先に勤める人のほうが、収入が多いそうです。あくまで平均的な結果ですが、二股をかけるような勤務をする人に対しては、それなりの評価しか与えられない、ということなのでしょうか。自分の時間を犠牲にして、別の仕事に携わろうとするのは、収入のアップというのが有力な理由と思うのですが、人より多く働いて、報酬はそれ以下、ではやり切れませんね。

Photo via Good Free Photos

【アイルランド】水道料金をめぐる政治問題

かつて日本は「水と安全はタダだと思っている」と陰口をたたかれていた時代があったらしいです。安全についてはタダどころか、GDPの1%を超えるか超えないかの国防予算を組んでいるし、水も安定供給を維持するために当局はまめに上下水道施設のメンテナンスを行っていて、そのための負担を水道料金という形で受益者は払っているのですが。

ところでアイルランドは少し前まで、各家庭が水道料金を負担しない、EUで唯一の国だったそうです。「だった」と過去形にしていますが、実はこれが同国の政治問題になっていて、現在も多くの人たちが水道代を払っていないらしい。このあたりのいきさつを、ラトヴィアの新聞が伝えています。

全文はちょっと長いのですが、内容をかいつまんで書いて見ますと:

・EU加盟国は”Water Framework Directive(水道枠組み指令、WFD)”を尊重する義務を負っている。WFDとは主にEU域内の水質保全を目的とした枠組みである。水の汚染者(=使用者)が供給コストを支払うのが原則である。ただしアイルランドはWFD第9条によりその義務を免除されてきた。
・近年アイルランドでは「水」と「会計」にまつわる概念が整ってきたため、EU委員会はもはやアイルランドに免除条項は適用されないと考えた。ギリシャに端を発した欧州経済危機のときに、アイルランドが融資を認められた条件が、水道料金制度の導入であった。
・当初当局は、水道メータ導入家庭には1,000リットル当たり4.88ユーロ、メータのない家庭には年間大人一人当たり176ユーロ、大人の構成員が増えるごとに一人当たり102ユーロの料金体系を決めたが、市民から猛烈な反発と抗議を受け、契約者・期間限定の割引料金などを提示して妥協を図った。しかし抗議はその後も続いていて、2015年時点でも全家庭の36%、約50万人が支払いをしていない。
・議会側から代案が出されるとそれに対する抗議が起こる。水道代なしの慣習でやってきたのだからそれでいいのでは、と疑問を投げかける議員もいるが、政府はEUに対し、水道料金を導入すると約束しているので、もしこの方針を撤回するとなると裁判沙汰となり、一日に何百万ユーロもの罰金を払わなくてはならなくなるかもしれない…

誤訳があったらごめんなさい。
この中で出てくるWFD第9条ですが、自分が見る限り、アイルランドのアの字も出ていない(WFDの英語テキストはこちら)。見る人が見れば、これはアイルランドを指している、ということがわかるのかもしれませんが、門外漢の日本人としては深く追求せず、ここはこうなのだ、と思うことにしましょう。

もともとアイルランドでは、水道代というのは一般の税制度の中で徴収されていたそうです。日本でも賃貸住宅の中には、家賃に水道料金が含まれている物件もあるので、このあたり理解はしやすい。同じインフラでも、電気・ガス・電話といった近代的なライフラインに対して、水というのは神代の昔から住まいの近くにあったはずだから、合理的に扱えない側面があっても不思議ではないでしょう。

ところで、この料金体系は高いのか、安いのか? 東京の水と比較してみました(東京都水道局の料金早見表はこちら)。水道局のHPには人数別の1ヶ月あたりの平均使用水量が載っているので、家族3人(約20立方メートル)、5人(約30立方メートル)のケースでシミュレーションしてみます。

東京の上水道は呼び径(メータ口径)で価格が異なるのですが、一番大きな25mmですと、20立方メートルの場合1ヶ月当たり3,391円、下水道が1ヶ月当たり1,684円なので合計5,075円。30立方メートルの場合は1ヶ月当たり4,773円、下水道が1ヶ月当たり2,821円なので月額合計7,645円。

これに対しアイルランドは、メータつきの計算式では、1,000リットル=1立方メートルですから、1ヶ月の消費量20立方メートルでは4.88×20=97.6ユーロ(1ユーロ120円とすれば97.6×120=11,712円)。30立方メートルでは4.88×30=146.4ユーロ(同146.4×120=17,568円)。メータなしの、家族の構成員数で計算されるケースでは、大人3人のときは年額176ユーロ(一人目)+204(102×2;二人目と三人目)ユーロ=380ユーロとなり、月額にすると31.66…ユーロ(同3,800円)。大人5人のときは二人目以降が408(=102×4)ユーロなので合計584ユーロ、月額48.66…ユーロ(同5,840円)?

家族3人の1ヶ月料金が、メータつきでは100ユーロ近くで、メータなしが30ユーロちょっとなんて、3倍も違う!使用水量が東京とは違うのでしょうか。また、追加分の大人料金102ユーロの扱いについては、我ながら翻訳がちょっと怪しいので、アイルランド当局の料金表に当たるべきかもしれません。

水道代込みの税体系をどうするのか、記事に言及がないのでなんともいえませんが、このままでは税と水道料での2度払いになるようにも見えます。とすれば抗議のデモも不払いも理解できないことはありませんが、現地の反発の根っこはもっと深いようにも思えます。イギリスの離脱問題で揺れるEUですが、異なる文化や歴史を持つ国々をひとつにまとめる難しさを象徴する事案のひとつといえそうです。

Photo via Good Free Photos

【ノルウェー】白樺花粉

日本では2月を過ぎ、春めいてくると、巷では花粉にまつわる話題が多くなります。自分は花粉症ではないのでよくわからないのですが、敏感な人は、もう飛んでる、などといってマスクをしたり、薬を求めたりして、準備に怠りがないようです。

ノルウェーでも花粉に悩む人は多いと見えて、現地の新聞に記事が載っていました。木の種類ごと、地方ごとに、その日と翌日の2日間の飛散予想をするサイトいくつかあるようです。ちなみに表中、縦の列の木の種類は、hassel=ハシバミ、salix=ヤナギ、bjørk=シラカバ、gress=草、burot=よもぎ。

花粉というと、日本では杉やヒノキがあげられますが、ご当地ではシラカバが厄介者扱いされているようです。シラカバとかダケカンバとかは日本の山でもよく見かける木で、実際本州中央部の山の中腹域より上部では、ポピュラーな存在ですが、これにも花粉があるとは認識の範囲外でした。記事の中に樹木の写真が載っていますが、どことなく奥多摩あたりでも見るような… また、シラカバとならんで、ヤナギの花粉も流行の兆しがあって、こちらは粘着性の花粉を昆虫が運ぶので、より始末が悪いようなことを書いています。

記事自体は、オスロ近郊の飛散状況と対策を解説しているだけですが、花粉症は4,50代で最もよく発生する、花粉症患者は他の重篤な病気にかかるリスクが低い、などと、ちょっと意外な文章をつづっています。

北国の春ではありませんが、ノルウェーにも春がやってきたのに、南風に乗って青空に舞うのは白樺の花粉である… というのではしゃれにもなりませんね。

(アイキャッチ画像はノルウェー紙「aftenposten」電子版より)

【チェコ】若者の飲酒喫煙に関する記事

がチェコの新聞に載っていたのですが、ここで報じられているのはアイスランドでの事例で、それがチェコとどう結びつくのか、文章を読んだ限りではわかりませんでした(記事はこちら)。

記事によると、90年代後半ころのアイスランドの若者の飲酒喫煙、薬物摂取の状況はヨーロッパでも最悪レベルだったとのこと。15,16歳の40%以上が習慣的に飲酒喫煙していて、17%は大麻の経験があるとする調査結果もあった。金曜の夜のレイキャビクは、荒れたティーンエージャが騒いで、危険な雰囲気に満ちていたそうです。

この事態に対して国を挙げての矯正プログラムを作成・実行したことにより、今ではこれら悪習慣はほぼ撲滅されたそうです。13~16歳の未成年者に対する夜間外出禁止令、20歳未満の若者への酒類販売と18歳未満へのタバコ販売の禁止といった政策のほか、学校の課外活動、特にスポーツへの参加に重点をおいた支援を行った結果、国のサッカーチームがヨーロッパの大会で上位の成績を残すまで成果が上がった。何よりもプログラムは家族の生活に目を向けていて、子供たちが両親と最良の時間を過ごせるようになったと結んでいます。

記事ではこのアイスランドの成功に触発された欧州プロジェクトに、17の国と35の都市が参加している… としていますが、その中にチェコも入っているのかどうかを明らかにしていません。文章中にはチェコのチェの字も出ていないのです。

アイスランドというのは、北海道よりやや広いくらいの面積に、32万人程度(2012年:旭川市と同じくらい)の人が暮らす島国です。若年層が荒れる風景というのは大都会のイメージがあって、原始的な自然景観が残る国とはどうも結び付けにくいのですが、どんな社会でもそれなりに、若い人たちへの扱いに大人が苦労する場面があるということなのでしょう。チェコも比較的のんびりした印象がありますが、同様の悩みがあって、それがこうした異国の成功例を記事にとりあげた背景なのかもしれません。

(アイキャッチ画像はチェコ紙「Týden」電子版より)

【ラトヴィア】報道に見える日本観

ラトヴィアと日本はかなり距離を隔てていますが、情報化社会の網はお互いをカバーしていると見えて、現地の報道記事にも、時折日本の話題が出ています。

2007年に天皇皇后両陛下の訪問があったということもあってか、このたびの退位に関するいきさつは興味を引いているようです。全体的には時事問題、政治経済分野よりも、どちらかというと観光案内的な内容が多く、京都や浅草の正月風景の紹介や、花見の記事などもありました。利害や損得の側面がなく、平和というのか、どこか現実感のない、やはり遠い国なのだ、という思いがします。

反対に紙面(電子版なので画面?)に「Krievija(ロシア)」の文字を見ない日はありません。かつてソ連の一員だったということもあるのかもしれませんが、政府要人の発言と一挙一動、食料エネルギー問題から安全保障政策まで、東の大国に対するぴりぴりした緊張感が伝わってきます。

そんな中で、日本の一地方であった事件が報じられていました(記事はこちら)。内容自体は、公園の公衆トイレの屋根裏で暮らしていた男が捕まったという、新聞というよりはテレビのバラエティ番組か、エログロ週刊誌あたりが取り上げそうな他愛のないものです。ラトヴィア紙はBBCの報道を引用したらしく、BBCは毎日新聞の英語版を情報ソースとしています(日本語の毎日はこちら)。

BBCの名前を出していますが、ラトヴィアの新聞の感心なところは、子引きのBBCの文章を鵜呑みにせず、原典(毎日のテキスト)にあたって、情報の正確さを担保しているところです。この事件の舞台となっているのは大分県の臼杵市なのですが、BBCは西南日本のウスキとしていて、大分という言葉は出していない。そこをラトヴィア紙は Oita prefektūrā と補っています。またBBCの訳には誤りがあり、屋根裏部屋にペットボトルが300本以上あったというところを、500本のプラスチックボトルとしているのですが、こういうところも丸写ししていません。BBCは臼杵市役所が提供した、事件現場の純和風の公衆トイレの外見写真を、毎日と同様引用していますが、ラトヴィア紙は某SNSからとして、独自の画像を載せています(これがその、純和風の建物の内部なのかどうかはわかりませんが)。

ラトヴィア紙のタイトルを直訳すると、「3年間公衆トイレに隠れていた日本人」となるでしょうか。BBCは「3年間日本のトイレの上で暮らしていた男」、毎日の英語版は「3年間大分県の公衆トイレの上で暮らしていた男を発見」。3年間、公衆トイレというキーワードで読者の注目を狙っているところは同じですが、「住む、暮らす」ではなく、「隠れている(潜伏=slēpjas)」という言葉を使っているのが興味深いところです。男が逮捕されたということで、逃亡中の犯罪者と考えたのでしょうか。

例によって文章は、発見のいきさつや現場の様子、その後の対応などを淡々と伝えているだけですが、この出来事の何が彼らのアンテナにかかったのだろう、かの地にはこういう住生活?をしている人はいないのだろうか、潜伏する、という言葉に彼らの琴線に触れる何らかの意味があるのだろうか… と、想像をめぐらせてしまいました。

(アイキャッチ画像は電子版ラトヴィア紙「vesti.lv」より)